ディーゼルエンジン

2025/03/30 ブログ
logo

【ディーゼル車の燃費】

ディーゼルエンジンを搭載した自動車(以下、ディーゼル車)は、ガソリン車と比較して一般的に燃費が良いとされています。この燃費の良さには、いくつかの重要な要因が複雑に絡み合っています。

1. 高い圧縮比による熱効率の向上

ディーゼルエンジンの最も大きな特徴の一つが、ガソリンエンジンよりも圧倒的に高い圧縮比です。圧縮比とは、エンジン内部のシリンダー内でピストンが最も下にある状態(吸気行程終わり)の容積と、最も上にある状態(圧縮行程終わり)の容積の比率のことです。

ガソリンエンジンの圧縮比は一般的に10:1前後であるのに対し、ディーゼルエンジンでは15:1から20:1、あるいはそれ以上の高い圧縮比が用いられます。この高い圧縮比が、ディーゼルエンジンの熱効率を大幅に向上させる主要な要因となります。

なぜ高い圧縮比が熱効率を高めるのか?

燃料と空気を混合した混合気を圧縮すると、温度が上昇します。ディーゼルエンジンでは、この圧縮によって非常に高温になった空気に燃料(軽油)を噴射することで、燃料が自然着火(自己着火)します。一方、ガソリンエンジンは、点火プラグの火花によって混合気に点火します。

高い圧縮比は、圧縮行程における温度上昇を大きくし、燃焼室内の温度と圧力を高めます。これにより、燃料がより効率的に燃焼し、燃焼エネルギーをより多くピストンの運動エネルギーに変換することができます。これは、熱力学の基本的な原理である「カルノーサイクルの効率」からも説明できます。カルノーサイクルの効率は、高温側の温度と低温側の温度の差が大きいほど高くなります。高い圧縮比は、燃焼時の最高温度を高めることで、熱効率の向上に貢献するのです。

また、高い圧縮比は、燃焼後の排気ガスの温度を相対的に低くする効果もあります。これは、燃焼によって得られたエネルギーがより多くピストンの運動エネルギーに変換された結果と言えます。

2. 希薄燃焼によるエネルギー効率の向上

ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して、より少ない燃料でより多くの空気を燃焼させる「希薄燃焼」と呼ばれる燃焼方式を採用しています。ガソリンエンジンは、理論空燃比(ガソリンと空気の理想的な質量比:約14.7:1)に近い混合気で燃焼させる必要がありますが、ディーゼルエンジンは、理論空燃比よりもはるかに空気の割合が多い状態で効率的に燃焼させることができます。

希薄燃焼のメリット

希薄燃焼の最大のメリットは、燃料のエネルギーをより効率的に利用できることです。空気の割合が多いことで、燃料がより完全に燃焼しやすくなり、未燃焼のまま排出される燃料が減少します。これにより、同じ量の燃料でもより多くのエネルギーを取り出すことができ、結果として燃費が向上します。

また、希薄燃焼は、燃焼温度を下げる効果もあり、有害な窒素酸化物(NOx)の生成を抑制する一助となります(ただし、現代のディーゼル車ではNOx後処理装置が必須です)。

3. 燃料(軽油)のエネルギー密度が高い

ガソリンと軽油は、どちらも原油を精製して作られる燃料ですが、単位体積あたりのエネルギー密度が異なります。軽油は、ガソリンよりも炭素原子の数が多く、分子構造も異なるため、同じ体積でもより多くのエネルギーを含んでいます。

具体的には、軽油のエネルギー密度は約38.6MJ/Lであるのに対し、ガソリンは約34.2MJ/Lです。つまり、同じ1リットルの燃料でも、軽油の方が約13%多くのエネルギーを持っていることになります。

この燃料自体の持つエネルギー密度の高さも、ディーゼル車の燃費が良い理由の一つです。同じ距離を走行する場合、よりエネルギー密度の高い軽油の方が、ガソリンよりも少ない燃料で済むため、燃費が向上するのです。

4. 低回転域での高トルクによる走行効率の向上

ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して、低い回転数で大きなトルクを発生させる特性を持っています。トルクとは、物体を回転させる力のことで、自動車においては加速性能や登坂性能に大きく影響します。

ディーゼル車は、発進時や加速時、登り坂などで力強いトルクを発揮するため、比較的低いエンジン回転数で走行することができます。一般的に、エンジン回転数が低いほど、燃料消費量は少なくなる傾向があります。

これは、ディーゼルエンジンの燃焼方式と構造に起因します。高い圧縮比と希薄燃焼により、燃焼室内の圧力が高まりやすく、これが大きなトルクを生み出す要因となります。

5. スロットルバルブ損失の低減

ガソリンエンジンは、エンジンの吸入空気量を調整するためにスロットルバルブを使用します。特に、部分負荷時(アクセルを少ししか踏んでいない状態)には、スロットルバルブが絞られ、吸入空気の抵抗が増加します。この抵抗は「ポンピングロス」と呼ばれ、エンジンの効率を低下させる要因となります。

一方、ディーゼルエンジンは、基本的に吸入空気量を一定に保ち、燃料噴射量を調整することで出力制御を行います。そのため、ガソリンエンジンのようなスロットルバルブによるポンピングロスがほとんど発生しません。この点も、ディーゼル車の燃費向上に貢献しています。

6. 最新技術による燃焼効率の最適化

近年のディーゼルエンジンには、燃費性能をさらに向上させるための様々な先進技術が投入されています。

  • コモンレール式燃料噴射システム: 燃料を高圧で蓄え、電子制御によって最適なタイミングと量で燃料を噴射するシステムです。これにより、燃焼効率が向上し、燃費と排出ガスの低減に貢献します。
  • ターボチャージャー: 排気ガスのエネルギーを利用してタービンを回し、吸入空気を圧縮してエンジンに送り込む装置です。これにより、エンジンの出力向上と燃費改善を両立できます。
  • 可変ジオメトリーターボ(VGT): タービンの羽根の角度を可変させることで、低回転域から高回転域まで効率よく過給を行うことができるターボチャージャーです。
  • 高精度なエンジン制御システム: エンジン回転数、負荷、温度など、様々なセンサーからの情報を基に、燃料噴射量、噴射タイミング、過給圧などを最適に制御するシステムです。

これらの最新技術によって、現代のディーゼルエンジンは、かつてのディーゼルエンジンのイメージを覆すほど洗練され、高い燃費性能を実現しています。

まとめ

ディーゼル車の燃費が良い理由は、主に以下の6つの要素が複合的に作用しているためです。

  1. 高い圧縮比による熱効率の向上
  2. 希薄燃焼によるエネルギー効率の向上
  3. 燃料(軽油)の高いエネルギー密度
  4. 低回転域での高トルクによる走行効率の向上
  5. スロットルバルブ損失の低減
  6. 最新技術による燃焼効率の最適化

これらの要因により、ディーゼル車はガソリン車と比較して、より少ない燃料でより長い距離を走行することが可能となり、優れた燃費性能を発揮するのです。ただし、ディーゼル車は、排出ガス規制への対応や車両価格、メンテナンスコストなどの側面も考慮する必要があります。燃費性能だけでなく、自身の使用状況や経済状況などを総合的に判断し、最適な車種を選ぶことが重要と言えるでしょう。

【ディーゼル vs ガソリン】

自動車の心臓部であるエンジンには、大きく分けてガソリンエンジンとディーゼルエンジンが存在します。どちらのエンジンを選ぶべきかは、個々のニーズやライフスタイル、そして何を重視するかによって大きく異なります。

1. 基本原理の違い

まず、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの基本的な作動原理の違いを理解することが重要です。

  • ガソリンエンジン: 燃料(ガソリン)と空気を混ぜ合わせた混合気をシリンダー内に吸入し、ピストンの圧縮によって高温・高圧になった混合気に点火プラグで点火することで爆発を起こし、そのエネルギーを動力に変換します。
  • ディーゼルエンジン: シリンダー内に空気のみを吸入し、ピストンの圧縮によって非常に高温・高圧になった空気に燃料(軽油)を噴射することで、燃料が自然着火(自己着火)し爆発を起こし、動力に変換します。

この基本的な原理の違いが、両エンジンの特性に大きな影響を与えます。

2. 燃費性能

一般的に、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりも燃費が良いとされています。その理由は主に以下の通りです。

  • 高い圧縮比: ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりも圧縮比が高く、熱効率に優れています。より少ない燃料でより多くのエネルギーを取り出すことができます。
  • 希薄燃焼: ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンよりも空気の割合が多い希薄な混合気で効率的に燃焼できます。
  • 燃料のエネルギー密度: 軽油はガソリンよりも単位体積あたりのエネルギー密度が高いため、同じ量の燃料でもより多くのエネルギーを持っています。
  • 低回転高トルク: ディーゼルエンジンは低回転域から大きなトルクを発揮するため、比較的低いエンジン回転数で走行でき、燃料消費を抑えられます。
  • スロットルバルブ損失の低減: ディーゼルエンジンは吸入空気量を一定に保ち、燃料噴射量を調整するため、ガソリンエンジンのようなスロットルバルブによるポンピングロスが少ないです。

メリット: 長距離走行が多い方や、燃料費を抑えたい方にとって、ディーゼル車は大きなメリットがあります。特に、走行距離が長いほど、燃料代の差が顕著になります。

デメリット: 短距離走行が中心の場合、ディーゼルエンジンのメリットを十分に活かせない可能性があります。また、後述するように車両価格が高めであることも考慮する必要があります。

3. パワー・トルク特性

ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して、低回転域から力強いトルクを発揮する特性があります。一方、ガソリンエンジンは、高回転域でより高いパワーを発揮する傾向があります。

  • ディーゼルエンジン: 発進時や加速時、登り坂などで力強いトルクを発揮するため、運転が楽に感じられることが多いです。特に、SUVやミニバンなど、車重のある車両との相性が良いです。
  • ガソリンエンジン: 高回転までスムーズに回り、伸びのある加速感が特徴です。スポーティーな走行を楽しみたい方や、高回転域を多用する運転をする方に向いています。

メリット: ディーゼル車の力強いトルクは、実用域での運転のしやすさや、荷物や人を多く乗せる場合に有利に働きます。

デメリット: 高回転域でのパワー感はガソリンエンジンに劣る場合があります。

4. 環境性能

かつてのディーゼルエンジンは、黒煙や窒素酸化物(NOx)などの排出ガスが問題視されていましたが、近年ではクリーンディーゼル技術の進化により、排出ガス性能は大幅に向上しています。

  • ディーゼルエンジン: 最新のディーゼル車は、DPF(粒子状物質除去フィルター)やSCR(選択触媒還元)などの高度な排出ガス浄化システムを搭載しており、PM(粒子状物質)やNOxの排出量を大幅に削減しています。ただし、これらのシステムには定期的なメンテナンスやAdBlue(尿素水溶液)の補充が必要となる場合があります。
  • ガソリンエンジン: CO2(二酸化炭素)排出量はディーゼルエンジンよりも少ない傾向にありますが、燃費性能によっては総合的な環境負荷が高くなる可能性もあります。

メリット: 最新のディーゼル車は、以前に比べて環境性能が大幅に向上しています。燃費が良い分、CO2排出量を抑える効果も期待できます。

デメリット: NOxやPMの排出量は、ガソリン車と比較して依然として多い傾向にあります。また、排出ガス浄化システムのメンテナンスコストがかかる場合があります。

5. 車両価格

一般的に、同じクラスの車両であれば、ディーゼルエンジン搭載車の方がガソリンエンジン搭載車よりも車両価格が高くなる傾向があります。これは、ディーゼルエンジンの構造がより複雑であり、排出ガス浄化システムなどの追加装備が必要となるためです。

メリット: 長く乗り続けることで、燃料費の差額によって車両価格の上昇分を回収できる可能性があります。

デメリット: 初期費用が高くなるため、購入時の負担が大きくなります。短期間での乗り換えを検討している場合は、経済的なメリットが薄れる可能性があります。

6. 騒音・振動

かつてのディーゼルエンジンは、特有の騒音や振動が大きいというイメージがありましたが、近年では技術の進化により、大幅に改善されています。

  • ディーゼルエンジン: 以前に比べれば静粛性は向上していますが、ガソリンエンジンと比較すると、依然としてエンジン音や振動がやや大きいと感じる方もいるかもしれません。特に、アイドリング時や低速走行時にその差が出やすいです。
  • ガソリンエンジン: スムーズで静かなエンジン音が特徴です。振動も少なく、快適な乗り心地を提供します。

メリット: 最新のディーゼル車は静粛性が向上しており、以前ほど騒音や振動は気にならなくなっています。

デメリット: 静粛性や振動の少なさを重視する方にとっては、ガソリンエンジンの方が快適に感じる可能性があります。

7. メンテナンス

ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して、オイル交換のサイクルが短かったり、DPF関連のメンテナンスが必要になったりする場合があります。また、部品の耐久性が高い反面、故障した場合の修理費用が高額になる傾向もあります。

  • ディーゼルエンジン: エンジンオイルの汚れが早いため、交換サイクルが短めに設定されている場合があります。また、DPFの目詰まりを防ぐための再生処理や、AdBlueの補充が必要となる場合があります。
  • ガソリンエンジン: 一般的に、ディーゼルエンジンよりもメンテナンスの手間や費用が抑えられる傾向にあります。

メリット: ディーゼルエンジンは耐久性が高いと言われています。

デメリット: メンテナンスの手間や費用が、ガソリンエンジンよりもかかる場合があります。

8. 車種ラインナップ

以前は、ディーゼルエンジン搭載車はSUVやミニバン、商用車などに多く見られましたが、近年では乗用車やコンパクトカーにもラインナップが広がっています。しかし、依然としてガソリンエンジン搭載車の方が選択肢は豊富です。

メリット: 近年、ディーゼルエンジン搭載車の選択肢は増えてきています。

デメリット: ガソリンエンジン搭載車と比較すると、車種の選択肢は限られます。

どちらのエンジンを選ぶべきか?

上記の比較を踏まえ、どのような方がガソリンエンジン、またはディーゼルエンジンを選ぶべきか、具体的な例を挙げながら解説します。

ガソリンエンジンがおすすめの方:

  • 街乗りや短距離走行が中心の方: 燃費のメリットを十分に活かせない可能性があります。
  • 車両価格を抑えたい方: 初期費用を抑えることができます。
  • 静粛性やスムーズなエンジンフィーリングを重視する方: 快適な乗り心地を求める方に向いています。
  • メンテナンスの手間や費用を抑えたい方: 比較的維持が容易です。
  • スポーティーな走行や高回転域でのパワー感を重視する方: 伸びのある加速感を楽しめます。
  • 豊富な車種ラインナップから選びたい方: 幅広い選択肢があります。

ディーゼルエンジンがおすすめの方:

  • 長距離走行が多い方: 燃料費を大幅に節約できます。
  • 力強いトルクを求める方: 発進時や加速時、登り坂などで余裕のある走行が可能です。
  • SUVやミニバンなど、車重のある車両を検討している方: 低回転高トルクの特性が活かせます。
  • 燃料代の高騰が気になる方: 軽油はガソリンよりも価格が安定している傾向があります。
  • ある程度の初期費用やメンテナンスコストを許容できる方: 長期的な視点で見ると経済的なメリットが出る可能性があります。

結論

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンには、それぞれ異なる特徴とメリット・デメリットがあります。どちらのエンジンを選ぶべきかは、あなたの運転スタイル、走行距離、重視するポイント、予算などによって最適な答えが異なります。

購入を検討する際には、それぞれのエンジンの特性を十分に理解し、自身のライフスタイルやニーズに最も合致するエンジンを選ぶことが重要です。可能であれば、試乗などを通して実際に乗り比べてみることをお勧めします。

それでは、良いカーライフを!!