走行距離は気にしない
走行距離10万km超えの中古車は「買い」なのか?
「走行距離10万km超えの中古車は買ってはいけない」――。
中古車選びでこのような話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、一概にそうとは言い切れません。確かに10万kmという数字は一つの節目ではありますが、現在の車は昔と比べて格段に進化しており、適切なメンテナンスがされていれば、10万kmを超えても十分に活躍してくれる車はたくさんあります。
なぜ10万kmが「節目」と言われるのか?
かつては、車の寿命が10万kmと言われた時代がありました。これは、当時の車の部品の耐久性や、タイミングベルトなど主要な部品の交換時期が10万kmに設定されていたことが主な理由です。タイミングベルトは、エンジンの重要な部品の一つで、切れてしまうとエンジンに深刻なダメージを与えるため、10万kmでの交換が推奨されていました。
しかし、現代の車は技術の進歩により、部品の耐久性が飛躍的に向上しています。タイミングベルトも、最近の車ではチェーン式が主流になり、10万kmでの交換が不要なモデルも増えています。もちろん、定期的な点検や消耗品の交換は必要ですが、10万kmを超えたからといってすぐに壊れるというわけではありません。
走行距離10万km超えの中古車のメリット
走行距離が多い中古車には、いくつかの魅力的なメリットがあります。
- 購入費用を抑えられる: 走行距離が伸びるほど、車の価値は下がると考えられるため、車両価格は安くなる傾向にあります。予算を抑えたい方にとっては、魅力的な選択肢となるでしょう。新車の半額以下、場合によっては1/3程度の価格で手に入ることも珍しくありません。
- 車種の選択肢が広がる: 予算が限られている場合でも、走行距離が多い車であれば、通常は手が届かないような上級グレードや人気の車種も視野に入れることができます。
- 「アタリ」を引けばお買い得: 丁寧に扱われ、定期的にメンテナンスを受けてきた車であれば、走行距離が10万kmを超えていても良好な状態を保っていることがあります。そのような「アタリ」の車を見つけることができれば、非常にコストパフォーマンスの高い買い物となるでしょう。
- 初回車検までの期間が短い: 走行距離が多い車は、すでに初回車検を経験している場合が多いです。そのため、購入後すぐに車検が来る可能性があり、購入費用に加えて車検費用も考慮に入れる必要があります。ただし、車検が残っている車であれば、すぐに乗れるというメリットもあります。
走行距離10万km超えの中古車のデメリットと注意点
メリットがある一方で、走行距離の多い中古車には注意すべきデメリットも存在します。
- 部品の劣化が進んでいる可能性: 走行距離が多いということは、それだけ多くの時間を路上で過ごしてきたということです。エンジンや足回り、電装品など、あらゆる部品が新品時より劣化している可能性があります。
- 故障のリスクが高まる: 劣化が進んでいる部品は、当然ながら故障のリスクが高まります。購入直後に修理費用が発生したり、思わぬトラブルに見舞われたりする可能性もゼロではありません。特に、主要な部品の交換履歴がない場合は注意が必要です。
- 修復歴車の可能性: 走行距離が長い車の中には、過去に大きな事故を起こし、修復歴がある車も紛れている可能性があります。修復歴車は、骨格部分に損傷があり、走行に影響が出る場合があるため、避けるべきです。
- 燃費の悪化: エンジン内部の部品が摩耗していると、燃費が悪化することがあります。長距離を運転する方にとっては、維持費に影響が出てくる可能性があります。
- 下取り価格の期待薄: 将来的に車を買い替える際に、走行距離がさらに伸びていると、下取り価格はほとんど期待できないでしょう。乗り潰すつもりで購入する方が賢明です。
購入時にチェックすべきポイント
走行距離10万km超えの中古車を購入する際は、特に慎重なチェックが必要です。
1. 整備記録簿(メンテナンスノート)の確認
最も重要なのが、整備記録簿の確認です。この記録簿には、過去の点検や整備、部品交換の履歴が詳細に記載されています。
- 定期的な点検が行われているか: 法定点検や定期点検がきちんと行われているかを確認しましょう。
- 消耗品の交換履歴: オイル交換、タイヤ、バッテリー、ブレーキパッドなどの消耗品が適切な時期に交換されているかを確認します。特に、タイミングベルト(チェーン式でない場合)やウォーターポンプ、ATF(オートマチックトランスミッションフルード)などの高額な部品の交換履歴は重要です。
- 特定の故障履歴: 過去にどのような故障があり、どのように修理されたかを確認することで、その車の弱点や潜在的なトラブルを把握できます。
整備記録簿がない車は、どんなに安くても避けるべきです。メンテナンスが適切に行われていない可能性が高く、後々大きな修理費用が発生するリスクが高いからです。
2. 車の状態の目視チェック
プロの目線でなくても、ある程度の状態は確認できます。
- 外装: 大きな傷やへこみ、サビがないかを確認します。特に、ドアのチリ(隙間)が均一でない場合や、塗装の色合いが一部だけ異なる場合は、修復歴車の可能性があります。
- 内装: シートのへたり、汚れ、タバコの臭い、電装品の動作などを確認します。エアコンがきちんと効くか、パワーウィンドウがスムーズに動くかなども要チェックです。
- エンジンルーム: オイル漏れの跡がないか、液量(エンジンオイル、冷却水など)が適切かを確認します。異音がないか、エンジンをかけたときに白煙や黒煙が出ないかなども確認しましょう。
- タイヤ: 溝の残り具合、ひび割れがないかを確認します。偏摩耗がある場合は、アライメントのずれや足回りの異常を示唆している可能性があります。
3. 試乗による確認
可能であれば、必ず試乗させてもらいましょう。
- エンジン音: 異音がないか、スムーズに回転するかを確認します。
- 走行中の安定性: 直進安定性、カーブでの挙動などを確認します。
- ブレーキ: ブレーキの効き具合、異音がないか、ペダルに違和感がないかを確認します。
- 変速ショック: オートマチック車の場合、変速時のショックが大きくないかを確認します。
- エアコン: きちんと冷風が出るか、異音がないかを確認します。
どんな人が10万km超えの中古車を「買い」なのか?
走行距離10万km超えの中古車は、以下のような方には「買い」となる可能性が高いです。
- 車の知識がある程度あり、自分で簡単なメンテナンスができる方: 自分で部品交換や点検ができる場合、維持費を抑えることができます。
- 予算を最大限に抑えたい方: とにかく初期費用を安く抑えたい方にとっては、魅力的な選択肢です。
- 短期間だけ車が必要な方: 数年間だけ乗る予定で、乗り潰すことを前提としている方には適しています。
- セカンドカーとして利用したい方: メインの車があり、たまにしか乗らないセカンドカーとしてなら、リスクも許容しやすいでしょう。
- 特定の車種に強いこだわりがあり、予算の関係で新車や低走行車に手が届かない方: 憧れの車を手に入れるチャンスとなるかもしれません。
購入後の維持費について
走行距離が多い車は、購入費用は安くても、その後の維持費が高くつく可能性があります。
- 消耗品の交換サイクルが早い: 購入後すぐにタイヤ交換やバッテリー交換が必要になることも考えられます。
- 突発的な修理費用: 部品の劣化による故障が発生する可能性が高いため、ある程度の修理費用を見込んでおく必要があります。事前に、万が一の修理に備えて貯蓄しておくことをおすすめします。
- 車検費用: 古い車は、車検時に交換が必要な部品が多くなる傾向があります。
これらの費用を考慮しても、トータルで安くなるかどうかを慎重に判断することが重要です。
まとめ:賢い選択で、後悔しない中古車選びを
走行距離10万km超えの中古車は、リスクがないわけではありません。しかし、適切な情報収集と丁寧な見極めを行うことで、非常にコストパフォーマンスの高い「掘り出し物」を見つけることができる可能性も十分にあります。
重要なのは、「走行距離が多いからダメ」と決めつけるのではなく、車の状態とメンテナンス履歴を徹底的に確認することです。信頼できる販売店を選び、整備記録簿をしっかりと見せてもらい、可能であれば試乗も行いましょう。また、万が一の故障に備えて、購入後の保証についても確認しておくことをおすすめします。
もし、ご自身での判断が難しいと感じる場合は、詳しい友人に同伴してもらったり、第三者機関による車両鑑定サービスを利用したりすることも検討してみてください。賢い選択をして、後悔のない中古車ライフを送ってくださいね!
世界記録保持者:ボルボ P1800とアーヴ・ゴードン氏
個人が1台の乗用車で走行した最長走行距離のギネス世界記録は、ボルボ P1800と、そのオーナーであるアメリカのアーヴ・ゴードン氏が保持しています。
2013年9月の時点で、ゴードン氏の1966年製ボルボ P1800の走行距離はなんと**300万マイル(約480万キロメートル)**に到達しました。これは地球を約120周する途方もない距離に相当します。ゴードン氏は2018年に残念ながら他界されましたが、彼とP1800の物語は、自動車史に燦然と輝く偉業として語り継がれています。
記録達成までの道のり
ゴードン氏がボルボ P1800を購入したのは1966年のこと。彼はすぐにこの車に魅了され、購入直後の週末だけで1,500マイル(約2,400km)を走行したといいます。その後も、毎日約200kmの通勤に加え、数えきれないほどの旅をP1800と共にしてきました。
- 1987年: 100万マイル(約160万km)達成。
- 2002年: 200万マイル(約320万km)達成。
- 2013年9月: 300万マイル(約480万km)達成。
この記録は、彼自身が1998年に樹立した169万マイル(約270万km)のギネス記録をさらに更新するものでした。
なぜこれほどの距離を走破できたのか?
ゴードン氏のボルボ P1800がこれほどまでの距離を走破できた理由には、いくつかの重要な要素が挙げられます。
- 徹底したメンテナンスと愛情: ゴードン氏は、車の状態を常に把握し、消耗品は適切な時期に交換し、故障した部品はすぐに修理するという徹底したメンテナンスを行っていました。「自分よりも車を大切にしてきた」と語る彼の言葉は、P1800に対する深い愛情を物語っています。工場マニュアルに厳密に従って整備を行うことも、彼のこだわりでした。
- 頑丈な設計と高品質な部品: ボルボ P1800は、元々高い耐久性を持つことで知られています。特に、エンジンブロックとトランスミッションは、300万マイルを達成するまで一度も交換されなかったと言われています。当時のボルボが追求した「安全性」と「信頼性」が、この偉業を支えたと言えるでしょう。
- オーナーの走行習慣: ゴードン氏の走行パターンも、車の長寿に貢献しました。彼は毎日長距離を安定した速度で走行することが多く、ストップ&ゴーの多い市街地走行に比べて、車への負担が少なかったと考えられます。
- 他人には運転させない: ゴードン氏は、自分のP1800を他人に運転させないというルールを徹底していました。これも、車の状態を細かく把握し、常に最適な運転を心がけていた証拠と言えるでしょう。
ゴードン氏は、「重要なのは300万マイル達成ではなく、300万マイルへ至るまでの旅、そしてそれまで私が経験したことです」と語っており、彼にとってP1800との旅こそが人生の喜びだったことが伺えます。
ボルボ P1800とは?
ギネス記録を樹立した「ボルボ P1800」は、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが1960年から1973年まで製造した2ドアのスポーツクーペです。
- 開発経緯: 当時、ボルボは堅実で実用的なセダンが主流でしたが、よりスポーティで魅力的なモデルを求める声に応える形でP1800が開発されました。当初は自社での製造が困難で、一部の生産はイギリスのジェンセン・モーターズ社に委託されていました。
- デザイン: イタリアのカロッツェリア・フルアのデザイナー、ピエトロ・フルアが手掛けた流麗で美しいデザインが特徴です。そのエレガントなスタイルは、歴代のボルボの中でも最も美しいと評価されることも少なくありません。
- 人気: 1962年から1969年にかけて放映されたイギリスの人気テレビドラマ『セイント(The Saint)』で、ロジャー・ムーア演じる主人公サイモン・テンプラーの愛車として登場し、世界中で人気を博しました。このこともP1800の知名度と評価を高める一因となりました。
- 耐久性: ゴードン氏の事例が示す通り、P1800は非常に頑丈な作りと信頼性の高いメカニズムを備えていました。これは、ボルボが伝統的に重視してきた「安全性」と「耐久性」の哲学が、このスポーツカーにもしっかりと反映されていたことを示しています。
他の長距離走行の事例
ギネス記録には及びませんが、世界中には驚くべき長距離を走行した車の事例が他にも存在します。
- メルセデス・ベンツ 240D(約460万km): ギリシャでタクシーとして23年間使われたメルセデス・ベンツ 240Dは、約460万kmを走破したと言われています。この車はエンジンを11回載せ替えるなど、大がかりな修理とメンテナンスを繰り返しながら走り続けました。ボルボ P1800のギネス記録が個人所有の乗用車であるのに対し、こちらは商用車としての酷使に耐え抜いた事例として注目されます。
- トヨタ・セコイア(約47万7千km): https://www.google.com/search?q=%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E4%BC%9A%E7%A4%BEiSeeCars.comの分析によると、中古車として販売されているセコイアのトップ1%の走行距離は、約47万7千kmに達していました。これは、耐久性に優れたSUVとして、トヨタ車の信頼性を象徴する例と言えるでしょう。
- 日本のハイエース(約66万km): 日本国内では、兵庫県のクリーニング店で使われていたトヨタ・ハイエースが、約66万kmを走破したという事例が報告されています。これは地球16周分に相当し、日本の商用車の耐久性の高さを示しています。
これらの事例は、適切なメンテナンスと愛情があれば、車が持つ潜在的な寿命は私たちが想像するよりもはるかに長いことを物語っています。
まとめ:走行距離の「限界」とは何か
アーヴ・ゴードン氏のボルボ P1800が達成した480万kmという走行距離は、まさに自動車の走行距離における世界記録であり、その耐久性とオーナーの愛情がいかに重要であるかを象徴するものです。
現代の車は技術の進歩により、昔に比べて格段に耐久性が向上しています。しかし、どんなに頑丈な車であっても、無限に走り続けられるわけではありません。定期的なメンテナンス、消耗品の交換、そして適切な運転習慣が、車の寿命を最大限に延ばすための鍵となります。
走行距離が「限界」とされるのは、単にメーターの数字だけではありません。部品の経年劣化、修理費用の増大、燃費の悪化など、経済的な理由や維持の手間から「もう十分に活躍した」と判断されることが多いのです。
ゴードン氏とP1800の物語は、車が単なる移動手段ではなく、オーナーと共に人生を歩む「相棒」となりうることを教えてくれます。彼らの偉業は、私たちに車の潜在能力と、それを引き出すための愛情と努力の重要性を改めて認識させてくれる、感動的な事例と言えるでしょう。
それでは、良いカーライフを!!